2024年 3月 Accuphase E-700 試聴レポート

Accuphase社のプリメインアンプ、E-700をレポートします。
出力は純A級動作で、価格は946,000円(税込)になります。

仕様はメーカーHPをご参照下さい。
→製品仕様詳細
→Webカタログ
短時間ですが、試聴した感想としては、
“E-700の印象は?”と問われれば、“貴婦人”であると私なら答えます。
理由は、このアンプが奏でる音色の所作が優雅で“品”を感じ取る事が出来るからです。
定位・解像度・空間表現など、基礎的な項目は前作から正統進化していますが、
それらを全面的に押し出して、“ここまで良くなりました感”を出すのでは無く、
敢えて主張しなくても、“分かる人には分かる”的な余裕を感じる音創りの印象です。
この“余裕”な再生は、若干聴き手を試すような、そんな所作で魅せてきます。
ただし、襟を正して緊張感を持って傾聴(拝聴)する感じではありません。
このアンプを理解し、打ち解けて行けば、チャーミングな音色である事に気付きます。
この辺りが、私がこのアンプを“貴婦人”と思う理由なのかもしれません。

同社製品の特徴である音の立ち上がりやキレ、滲みが少ないアキュレートなサウンド加え、
E-700には、音にコクがあり、肉付きや血色が良く、血の通った音色を奏でます。
解像度(SN)が上がると、背景の静寂感や各音のセパレーションが増す事で、
音像だけが浮いてしまう事があるのですが、本機は前後・上下・左右、各帯域などの
接合部分に“潤い”があり、この潤いが潤滑油として各音を繋いで整合性を高めています。
とても有機的な表現で、この“潤い”がE-700に感じる音の“コク”なのかも知れません。
私が持つイメージとしては、国産の高級ウイスキー(山崎・響)のような、
伝統と技術に裏打ちされた、長い年月を掛けて熟成する様な琥珀色の音色に聴こえました。

この文章だけで判断すると、ただ“癖”の強いアンプになってしまいますが…

このアンプの凄さは、ボーカルものを聴いた時に感じ取れます。
“癖”が強いアンプで再生すると、時々歌い手の年齢が判らなくなる時があります。
例えば、歌い手が収録した年齢より若(幼)い声で出たり、角が取れた音で出たり…
しかし、このアンプで再生すると、“潤い”のある声ではありますが、
歌い手が収録した年齢(時期)に近い、年相応の声で聴かせてくれます。
これは、細かい事ですが、再生芸術に於いてはかなり重要な事であり、
同一人物、同一曲でも、歌い手が20代、40代、60代では、
声質は勿論、発声技術、人生経験や人間性などで楽曲解釈のニュアンスは変化します。
その点に於いて、精度(正確性)と個性を同居させることは、高度な調整が必要であり、
この“潤い”が単なる“癖”では無く、“コク”と表記するのが、正しいと思うのです。
まるで、数十年、数百年先の味を想像して、最初の1年を仕込むウイスキーの様に…

よって、このアンプは音が“鳴る”では無く、音が“成る”と言う事なのでしょう。
プレーヤーからの入力信号を正確に増幅して音が“鳴る”のでは無く、
入力信号に対して、意思をも持って“仕上げる”つまり“成る”と言う事です。

当初、E-800が存在感を放つなかで、E-700の投入には些か疑問に思っていました。
しかし、E-800があるおかげでE-700は、ある程度自由な音創りが出来た様にも思います。
プリメインアンプはひとつのパッケージで設計(サウンドデザイン)が出来るので、
今回の様な、設計者の作家性が溢れたサウンドに仕上がったのかもしれません。

荒々しくも真っ直ぐなE-600、繊細で奥ゆかしいE-650は円熟の時を経てE-700へ…

企業が100年続くには、伝統・技術だけでは生き残る事は出来ません。
絶えず新鮮な血(人材)を入れ替え、時代にあったニーズへの対応が求められます。
“変わらない理念”を受け継ぐ為に、“変わる努力”を積み重ねる…
その繰り返しで次の10年が生まれ、伝統と技術が積み重なって和音となるのです。
E-700には、その様な息吹きを感じさせる機器でした。
やはり、オーディオ機器は聴いてみるまで分からないと実感した次第です。

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